矯正治療において歯を移動させるため、その固定源としてインプラントを用いる手法をインプラント矯正といいます。矯正治療の成否は、適切で強固な固定源を確保し歯を移動することにかかっております。
インプラント矯正は、矯正治療のパラダイムシフトをもたらしており、治療の確実性や治療期間の短縮に大きく役立っております。
インプラント矯正の利点へ
インプラント矯正ではチタン製のスクリューやプレートを歯の周囲の骨に植立し、これを固定源に歯に力を加え、歯並びをきれいにします。
矯正用インプラントへ
インプラントとは歯の喪失した部分の骨に支柱を埋入・植立し、その上に歯の形をした被せものをすることで、咬合機能を回復させる手法です。インプラントには、入れ歯やブリッジをする必要がなくなる、あるいは天然の歯と遜色なく噛むことができる、などの利点があります。
インプラントの材質や技術の進歩により、骨と強固に癒着することで天然歯の代わりとして問題なく機能するようになってきました。
欠損部位へのインプラントの植立
インプラントが天然歯より強くしっかりと植立されていることより、矯正治療の固定源としての利用が試みられました。
インプラントを固定源とした歯の移動
インプラントが矯正用の固定源として十分利用できることが分かってくると、より安価で小さい矯正用のインプラントを開発しようという試みが始まりました。
当院では主に三種類のインプラントを、矯正用の固定源として利用しております。
もっとも広く用いられている矯正用インプラントです。 様々なスクリュータイプ・インプラントが市場に出ておりますが、当院ではアゴの骨折時に固定のため用いられているチタン製のスクリューを矯正用として目的外使用しております。長年外科で利用されているという安心感、純チタンであり生体毒性が無く親和性が良い材質で周囲の骨にしっかりと植立されます。また強度が高く術中の破切等の問題がほとんど無い、などの長所があります。
スクリュータイプの植立の手順は、非常にシンプルです。患者さんが感じる痛みは最初の麻酔注射だけで、10分ほどで処置は完了します。
処置後も腫れることはありませんし、痛みや違和感の訴えはほとんどありません。 矯正治療が終わったら取り除きますが、麻酔無しで簡単に撤去でき、撤去部位の穴は次の日には塞がっています。
問題点としては、せっかく植立してもグラグラしてくることがまれにあります。特に痛んだり腫れたりするわけではないのですが、固定源としての役には立たず、再度処置が必要となることです。また歯と歯の間に埋入させるため、インプラント周囲の歯を大きく移動することはできません。
スクリュータイプ・インプラント
プレートタイプの矯正用インプラントは、粘膜下でスクリューにより固定され、歯を牽引するためのフックが粘膜を貫通し奥歯の外側に出ています。
プレートタイプ・インプラント
スクリュータイプと比べ固定源が強固で、大きな歯の移動が効率的にできます。
しかしながら、プレート埋入時と撤去時に粘膜を切開し剥離する必要があり、処置後の数日間はある程度腫れることを覚悟しなければなりません。
スクリュータイプには植立場所や歯の移動量に制限があり、プレートタイプには術式が煩雑で手術侵襲が大きいといった、それぞれの欠点があります。組織外プレート・インプラントは、スクリュータイプとプレートタイプの両者の欠点を補った特徴を有しており、当院にて開発、臨床応用を進めてきました。
歯の牽引の固定源となるプレートを、口蓋の粘膜上に設置することで、上顎の大臼歯の遠心(後方)移動や圧下といった通常の矯正治療では困難な移動が可能となります。
プレート部は二本のスクリューにより口蓋骨に固定されるため、生体内に埋入されるのは細いスクリュー部だけで、手術の侵襲は小さく、術後腫れたり痛むことはありません。
組織外プレート・インプラントの植立
一般的な矯正治療における歯の移動は、前歯と奥歯、上の歯と下の歯の間で、ゴムやバネを利用して行います。例えば前歯を牽引するため中間の歯を抜きその固定源を奥歯に求めますと、奥歯が前方へ移動してしまい折角抜歯により得られた移動スペースが無くなってしまうことが有ります。通常の矯正治療では、このように固定源となるべき歯の好ましくない移動が起こることがあり、そのコントロールが矯正治療を複雑にしております。
インプラント矯正では、骨に固定したインプラントから歯に直接力を加えますので 適切かつ効率的な歯の移動が可能となります。結果として、治療期間が短縮されます。
通常の矯正治療
犬歯と大臼歯をゴムで引き合っています
スクリューを固定源とした
前歯および犬歯の牽引
ヘッドギアによる奥歯の後方移動
インプラント矯正では、骨に固定源を求め矯正力を加えますので、ヘッドギアなどを使用しなくても奥歯を確実に遠心(後方)へ移動することが出来ます。 結果として、歯を抜かなくても治療可能な症例が増加します。
矯正治療による歯の移動で最も難しいのは、歯をあごの骨に押し込む、すなわち歯の高さを低くする移動です。これは圧下移動と呼ばれ、特に奥歯の圧下はほぼ不可能と考えられています。
前歯部の開咬症例では、奥歯が高すぎて前歯が噛み合わない人が少なくありません。本来は奥歯を圧下することで前歯が噛んでくることを計画すべきですが、一般的な矯正治療では奥歯の圧下が不可能なため前歯を上下的に引き出して噛ませることが行われています。
インプラントを固定源とすることで、本来アプローチすべき歯の圧下が可能となり、審美的にも機能的にも良好な治療結果が得られております。
大臼歯の圧下による前歯部開咬の治療